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前髪のお話。

『翼くんって、いつも前髪留めてるよね。』
書記に、さっき生徒会室で言われた、そんなたった一言の言葉。
それで、俺はふと昔のことを思い出した。
ずっと前のこと。
まだ俺が、親に捨てられたばかりの、あの頃の記憶を。
あれは確か、梓に2回目に会った時のことだったはず。

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「いた…っ!?」
「ん、どうしたの、翼。」

梓が遊びに来てくれたことが嬉しくて、夢中で梓と話していたら、目に痛みが走った。
伸びていた前髪が目にはいったのだ。

「うぅ…またなのだ…」
「もしかして、前髪?目に入るんじゃないの、それ?」
「そうなのだ〜。でも俺、髪切るのめんどくさいし…」
「ふーん。なら、これ使えば?」

梓が手に持っていたのは、銀色のなにか。はさむものっぽい。

「ぬ?なんだ、それ?」
「なんだっけ。コンコルドとかそんな名前だった気がする。
これをこうしてー…」

そう言って、梓が俺の前髪に手を伸ばす。
そのまま持ち上げて、まとめてさっきの[こんこるど]とかいうので留めてしまった。

「どう?これで邪魔じゃないでしょ?」
「ぬおぉー!!!すごい、凄いぞ梓!!!前髪が邪魔じゃない!!!」
「そう、よかった。
僕は使わないし、それあげるよ。」
「本当か!?ありがとう梓!!!」

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それから俺は、ずっとこの髪型だ。
たまにゴムで留めることもあるけど。
楽なのは確かにそうだけど、それよりなにより。

「梓が、初めて俺のためにくれたものだから。」
「…ん?翼、なにか言った?」

ああそうだ。今は学校の帰り道だった。

「ぬ?なんでもないのだ!」
「ふーん、そっか。」

隣にいるのは、俺の大事な人。
世界で一番、大事な人。

『人と違うって、個性だよ。 みんなと同じなんて、つまらない。』
そう言って微笑んだ人。
ああ、昔から、ずっと。

「なあ、梓。俺、梓が大好きだぞ。」
「知ってる。」
「なあなあ、梓は?俺のこと…」
「好きに決まってんだろ、ばか翼。」

ちょっと赤くなった、彼の頬。
君がいたから、君がいてくれるから、俺の視界は開いた。世界が広がった。
「ありがとな、梓。」
「は?」
「ぬははっ、な〜んでもないのだっ☆」
「…あっそ。」

ありがとう、俺の大事な人。

初翼梓だったものです。
あえて梓ではなく、翼の前髪のお話にしてみました。
n番煎じだけど梓の前髪のお話も書きたいです。